戯言

ノスタルジック・ホットドッグ

学生時代バイトしていた夜の街のホットドッグ屋が店を畳むそうで、
最後の営業日に顔を出しに行ってきた。
 
敷地は一畳程度、オーナーとバイト一人体制の小さい店。
狭くてすれ違うのも一苦労。エアコンなんか置けるわけもないので、夏は暑く、冬は寒い。ほとんどが夜の店へのデリバリーで成り立っていた。
 
 
 
20年、続けたのだと。
 
店を畳むのも、決して経営難で潰れるわけでなく、オーナー自ら終わる選択をしたのだと。
 
 
 
オーナーは実にファンキーでカッコいい女性で、
バイトの服装・頭髪は自由。むしろ派手で個性的なバイトを積極的に雇いたがっていた。
 
歴代、僕の大学の軽音サークルの人間(その中でも、とりわけ癖のある人間)が、そこのバイトを引き継いできた。
当時の僕も、三色のモヒカンや、髪・眉毛・髭を金色にした状態で働いていた。
 
 
 
 
社会人になって振り返ると、すごく楽しいバイト先だったな、と思う。
 
 
オーナーは、接客業とは思えぬ口の悪さで、酔って面倒な客を恐ろしく冷酷にあしらったり、通りすがりの不細工なホステスを見て(僕にだけ聞こえる声で)酷い仇名をつけて涙が出るほど爆笑したりするような人だ。
 
そして、飲みに行くと、朝まで暴れ倒すが、いつも何一つ記憶がなく、翌日に僕に一部始終を説明させて、またそれを聞いて爆笑するような人だ。
 
 
 
 
 
実は、今年の春に、ふらっと僕が立ち寄った時、一人で働いているオーナーを見て、
その時に、長い歴史の中で、初めてバイトに飛ばれたのだと聞いた。
「急に飛ばれたから新しいバイトも見つけきれずに一人でやりよるんよ」と、疲れた様子で話してくれた。
 
僕は、今の仕事が非正規職員である関係で、春に2週間程、無職になる。それで僕は、その間、忙しい週末だけ店を手伝ったのだ。10年振りに。
 
 
探り探り、思い出しながら仕事をした。
意外と覚えているもので、少し働くと、パンを切る加減や、仕上げの感覚なんかはすぐに取り戻せた。
 
しかし、僕は普段、所謂キャバクラやらスナックやらには全く行かない人間なので、昔デリバリーに行っていたビルの名前が思い出せなかったり、無くなった店と新しくできた店の情報量に戸惑ったりした。
 
それでも、ホットドッグを抱えて、しばらく歩きまわっていると、
当時も街角に立って「おっぱいはいかがですか」と道ゆく人々に声を掛けていたおじさんやら、
店のレイアウトもほぼ変わらぬままの花屋の前で煙草を咥えるおじさんやら、
変わっていない風景も幾つか見れた。
 
何より、酔って店先でメニューを眺める客に背を向けて、「何なん、この不細工。買わんでいいちゃ」と毒を吐くオーナーを見て、10年間このスタンスを変えずに働いてたんだな、と可笑しくなった。
 
わずかな期間、久々に働いた中でも、
 
申し訳なさそうに「すいません、ここってタコ焼きは…」と問い掛けた客に食い気味で「ないです」と一言だけ返して追い払ったのは、圧巻だった。
 
 
 
 
そして、少しの手伝い期間を終え、また僕はフルタイム勤務の日常に戻った。
 
あれから新しいバイトは見つかっただろうかと、時々、気にしながら過ごしていたが、つい先日、「店を畳むことにしました」と連絡がきた。
 
 
 
 
最後の営業日。
僕が店に着いた時、少し忙しそうだったので、腕時計を外して、店に入り、小一時間ほど、ホットドッグの仕上げと数件のデリバリーを手伝った。
 
少し落ち着いてから、僕も自分の土産用にホットドッグを注文し、オーナーが焼いたホットドッグを、自分で仕上げて、持って帰った。
 
 
 
相変わらず、お世辞抜きで美味しい。
 
チーズの量は昔より、少し多くなった気がする。
 
最後だからサービスしてくれたのか、ここ最近は多めにしていたのかは、わからないけど。
 

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